バルゼッレッタ

イタリア人は皆おしゃべり好きで、町を歩いていて偶然友達に出会った時とか、バス停で待っているバスがなかなか来ない時(イタリアではバスや汽車の時刻表はあってないようなものです)に隣で自分と同じように待っている見ず知らずの人とよく立ち話をしたりします。そんな時にこの「バルゼッレッタ(日本で言う「笑い話」とか「ジョーク」の事です)」というのがよく話され、どっちの「バルゼッレッタ」がより面白いかなんて事をよく競い合ったりします。

その1

ある天気の良い日の午後、一人の警察官が新車のパトカーで街を走っていました。信号が赤に変わり荷台に沢山の石を積んだトラックの後ろに止まり信号待ちしていました。

「今日は良い天気だなぁ〜。それにパトカーも新車だし・・・やっぱり新車はいいなぁ〜。それにしても前のトラックの荷台の石は重そうだなぁ〜。落ちてきたらやばいから少し離れて走った方が良いかなぁ・・・。」

そうこう考えているうちに信号が青に変わり、止まっていた車は次々に走り出していきました。そして前のトラックが走り出すと荷台の一番上にあった大きな石が一つガタガタっと大きく揺れてパトカーのボンネットの上に崩れ落ちてきました。パトカーのボンネットは「ボンッ」という大きな音とともに大きくベッコリとへこんでしまいました。

「あぁぁぁぁ〜!!!どうしよう〜!!!新車だったのに〜!!!」

警察官はおろおろと狼狽えるばかりで前のトラックのことなんかすっかり忘れていました。

「署長になんて言い訳しようかなぁ〜。怒られるだろうなぁ〜。あ〜ぁ。」

警察官はしょんぼりして警察署に帰っていきました。警察署に帰ってからも、暗く落ち込んでいると

「どうしたんだョ、そんなに暗く落ち込んで。何かあったのか?」

と友達が尋ねてきたので事情を説明すると、友達は笑いながら

「なんだそんなことか。それなら簡単に直せる良い方法があるから教えてあげるョ。いいか、よく聞けョ。ボンネットのへこみを元通りにするにはボンネットを内側から膨らませればいい訳だろ。だったら車のマフラーに口をつけて思いっきり息を吹き込んでやればいいんだョ。そうしたら車は内側から風船のように膨らんで元通りになるョ。」

それを聞いた警察官は大喜びで

「わかったョ。早速試してみるョ。本当にありがとうな。持つべきものはやっぱり友達だョ。」

と言い残してパトカーの方に行きました。
それから数時間後、警察署長が廊下の窓からふと外を見ると一人の警察官がパトカーの後ろにかがみこんで何かをしているのが見えたので不思議に思ってその警察官のところまで行ってみることにしました。そしてかがみ込んでマフラーに口をつけて顔を真っ赤にしながら息を吹き込んでいる警察官を呼んで

「君は一体全体何をやってるんだ?」

と尋ねると、警察官はトラックから石が落ちてきて新車のパトカーのボンネットがへこんでしまったこと、友達からマフラーから息を吹き込めば車が膨らんでボンネットも元通りになるということを聞いたこと、そして何時間も息を吹き込んでいるがちっとも元通りにならないことなどを説明しました。
すると署長は怒鳴って言いました。

「ばかもの!!!そんなことをやっているからいつも市民から馬鹿にされるんだ。いくらマフラーに口をつけてどんなに一生懸命息を吹き込んでもボンネットが元通りになるはずないじゃないか!よく見てみろ!窓が開いてるじゃないか!ちゃんと窓を閉めてからじゃないとせっかく息を吹き込んでも空気が全部逃げてしまうじゃないか!!!」

その2

新婚のマリオは、ある天気の良い日曜日の朝、新聞を読んでいました。するとキッチンの方から彼の奥さんの声がしました。

「ねぇあなた、今日は久し振りにエスカルゴ(カタツムリ)でも食べましょうョ。」

「お、いいねぇ。それじゃぁ今日はちょっと豪華な食事でもしようか。僕達も新婚なんだし・・・ネ。」

「そうよねぇ。それじゃぁ、あなたちょっと悪いんだけど、市場まで行ってエスカルゴを買ってきてくれない?」

「OK!」

「早く帰ってきてねぇ」

こうしてマリオは市場に出かけていきました。

市場でかご一杯の生きたエスカルゴを買って、家に帰る途中、後ろから1台の真っ赤なスポーツカーがクラクションを鳴らしながら近付いてきました。そしてマリオの横にそのスポーツカーが止まると、車の中には友達のジョバンニと金髪の美人が2人乗っていました。

「マリオ。こんなところで何してるんだョ?」

「よお、ジョバンニ。俺はちょっと市場まで買物に行ってたんだけど、お前こそ何してるんだョ。」

「後ろの2人を見てみろョ。昨日ディスコで知り合ったんだけど、美人だろ?あっそうだ、お前も一緒に来いョ。4人でこれからどっかに行って楽しもうぜ!」

「う〜ん、どうしようかなぁ・・・。早く家に帰るって約束しちゃった品ぁ・・・。う〜ん・・・。でもまぁ少しくらいだったらいいかなぁ。よし、ちょっとだけ行ってこよう。」

こうしてマリオは車に乗り込み、ジョバンニ達と一緒に遊びに行きました。

ちょっとのはずが、いつの間にか時間が過ぎて、気がついた時にはもう夜中の1時を過ぎていました。

家の近くまでジョバンニに来るまで送ってもらい、奥さんへの言い訳を考えながらとぼとぼと歩いていました。

「どうしようかなぁ。すぐに帰るって言ったのに、もうこんな時間だしなぁ。まずいなぁ・・・。」

いくら考えてもちっとも良い考えは浮かんでこなく、そうこうしているうちに家の前についてしまいました。

マリオは家のブザーを鳴らしました。中から奥さんの足音が聞こえてきたその時、彼はふと何かを思い付いたかのように、腕に抱えていたかごの中のエスカルゴを全部床にぶちまけました。

そして家のドアが開くと同時に、床にばらまかれたエスカルゴに向かって、手拍子しながら言いました。

「ほら、もう着いたョ。あともう少しだョ。疲れただろ?長い道のりを、お前達よく頑張ったネ。」